低重量でも高重量でも限界までやれば同じくらい筋肥大する
筋肥大のためのトレーニングには、良く中程度の重量で回数をこなすようなトレーニングが勧められます。例えば、最大挙上重量の75%付近で10回を3set行うようなウエイトトレーニングです。
しかし、最大挙上重量の30%付近の重さで限界までやるようなトレーニングを行った場合でも、高重量でトレーニングした場合と同程度の筋肥大が起きるという報告も多くなされています(Morton et al.,2016)。
つまり、高重量でも低重量でも限界までやれば、同じくらい筋肥大が望めるというわけです。
この理由には、「サイズの原理」という言葉が深く関わっています。このサイズの原理をザックリ説明すると、少し軽めのダンベルカールを連続して行う時に、サイズの小さな遅筋線維が先に使われて、疲れて辛くなってくると徐々にサイズの大きな速筋線維が使われていく…というものです。
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筋肉を大きくするためには、速筋線維を刺激することが重要だと言われています。なぜなら、速筋線維は遅筋線維と比べて、筋肥大のポテンシャルが高いからです。
なので、軽い重さで辛くならない程度にしかウエイトトレーニングをしていないと、遅筋線維ばかりが使われて、なかなか速筋線維が刺激されないことになってしまいます。
逆に、最初から高重量でトレーニングをしていれば、最初から速筋線維も動員されるので、効率的に速筋線維を刺激でき、筋肥大を効果的に起こすことができるということになります。
しかし、軽い重さでトレーニングをする場合でも、限界まで行うようなことをすれば、終盤に速筋線維もちゃんと活動してくれます。なので、軽い重さでトレーニングをしたとしても、きちんと限界まで追い込めば、高重量と同じくらい筋肥大を起こせるというわけです。
軽い重さで限界までトレーニングしたら本当に速筋線維が刺激されているのか?
とはいえ、「軽い重さで限界までやれば、速筋線維が動員されるはずだから」という理由は、あくまで推察に過ぎません。軽い重さでトレーニングを限界までしたときに、実際どのように遅筋線維や速筋線維が使われているかはきちんと検証されるべきだといえます。
そこで、Mortonほか(2019)の研究では、1RM(最大挙上重量)の80%で通常のリズムでトレーニングした群とゆっくりとした動作でトレーニングした群、1RMの30%で通常のリズムでトレーニングした群とゆっくりとした動作でトレーニングした群、それぞれで、筋線維がどのように使用されているかを検証しました。
その結果、負荷がかかっていたトータルの時間やトレーニングでの総レップ数、筋放電については、それぞれの群で相違があったものの、遅筋線維と速筋線維のグリコーゲンの減少量や、筋肉の合成を促すシグナルは、似たようなものとなりました。
これらのことから、やはり低重量のトレーニングであっても、それがゆっくりとしたトレーニングであっても、限界まで行えば速筋線維を刺激して、筋肥大を起こすためのスイッチを入れることができるだろう…ということが部分的に確認できたと言えます。
~Morton et al.(2019)のキーポイント~
・よりサイズの大きな運動単位の動員と、速筋線維の活性化のためには、より重い負荷でのレジスタンストレーニングが良く提案されており、それによって速筋線維が肥大します。これに関して、筋線維の活性化の確認のために表面筋電図(EMG)が使用されてきました。しかし、より軽い負荷で限界まで行う(つまり、随意疲労)ようなトレーニング時にも同様に、速筋線維の活性化が生じるかは検証が不十分です。
・本研究では、通常、およびよりやや長めの拳上速度の両方で、重い or 軽い負荷で限界までレジスタンストレーニングを行いました。
・速筋線維および遅筋線維のグリコーゲン減少度合いは、負荷にも、拳上速度によっても決定されませんでした。
・表面筋電図の振幅は、筋線維グリコーゲンの枯渇または同化シグナル伝達とは関連していませんでした。しかし、筋線維のグリコーゲンの枯渇と同化シグナル伝達は関連していました。
・したがって、限界までトレーニングするときは、負荷の重さや拳上速度に関係なく、速筋線維の活性化が生じると考えられます。
ただ、トレーニングの時間効率を考えると、低重量で限界まで行うとなればそれなりに時間もかかってしまいますし、主観的な辛さも多少大きくなるかもしれません。
また、低負荷でのトレーニングは主に遅筋線維を肥大させるかもしれないとした報告や、速筋線維を確実に動員できている範囲でのトレーニングボリュームが、筋肥大に影響する…とした主張もあります。
加えて、低負荷でのトレーニングでは、爆発的なパフォーマンス改善には不向きであるとも言われています。(いったん低負荷で筋肥大させて、その後高い筋力を発揮するようなトレーニングを行えば大丈夫かもしれません)
このことから、爆発的な力発揮が重要なアスリートや、トレーニングにそこまで慣れていなくて、効率的に筋肥大を目指したい人にとっては、一般的に推奨されているような中〜高重量でのトレーニングを、まずは正しいフォームで行えるようになる、その状態で基礎を固めていくようなことを続けていくことは大切でしょう。
参考文献
・Morton, R. W., Oikawa, S. Y., Wavell, C. G., Mazara, N., McGlory, C., Quadrilatero, J., ... & Phillips, S. M. (2016). Neither load nor systemic hormones determine resistance training-mediated hypertrophy or strength gains in resistance-trained young men. Journal of Applied Physiology, 121(1), 129-138.
・Morton, R. W., Sonne, M. W., Farias Zuniga, A., Mohammad, I. Y., Jones, A., McGlory, C., ... & Phillips, S. M. (2019). Muscle fibre activation is unaffected by load and repetition duration when resistance exercise is performed to task failure. The Journal of physiology, 597(17), 4601-4613.