「筋力に関する基礎知識」でスピード筋力について少し触れましたが、ここではもう少し深く解説していきます。
☆筋肉の力・速度関係
筋の収縮様式であるコンセントリック(短縮性)、アイソメトリック(等尺性)、エキセントリック(伸張性)
これらと収縮速度との関係はスプリントを語る上で非常に重要な要素となります。
まずは以下の図を見てください。
このように、コンセントリック収縮では速度が高いほど力が発揮できず、エキセントリック収縮では速度が高いほど大きな力を発揮できます。
スプリントにおいては、特に全力疾走時、非常に高い関節の角速度やその変化とともに、筋の長さ、収縮スピードも大きく変化し、高い収縮スピードで大きな力発揮が求められます。
最大スピードは自分の体重をどのレベルまで加速させ続けられるかで決まりますので、より高い収縮スピードにおいて力を発揮できなければ、それ以上高いスピードは出せないということになってしまいます。
したがって、スプリンターはより高いスピードでも力が発揮できる、次の図のような体力要素(スピード筋力)が必要になります。
さて、ではスプリントにおけるこの能力を獲得するためにはどのようなことをしたらいいのでしょうか。
一つ考えられるのは「最大スピードを出す」ことでしょう。
やはり全力スプリント以外に、筋の収縮スピードが高い状態のエキセントリック収縮やコンセントリック収縮、または地面への力発揮が求められる運動は少ないかと思います。
あとは、チューブ等での牽引、下り坂で意図的に高速の関節角速度を引き出しながら力発揮をさせる状態を作り出す方法も考えられます。
別のアプローチとしては、これよりも遅い速度での筋力を高める手段があります。
ウエイトを用いた筋力トレーニング、重りを引いて走るスレッド走、坂道走で、少し遅い速度での力発揮、車でいうローギアでの力発揮を高めることで、スピードが高いハイギアでの力発揮のポテンシャルを高めるといった考え方です。
ポテンシャルを高めるという表現をしましたが、ローギアでの力発揮が高まっても、ハイギアでの力発揮が高まるとは必ずしも言えないからです。
下の図のようなことは十分ありえます。
ですので、ローギアでのトレーニングばかりを行うのではなく、しっかりとハイギアでの力発揮に繋げられるような意識を持ってトレーニング計画を立てたり、練習したりすることは重要であると考えられます。
レベルが高くなるにつれ最大筋力とこれらの能力の関係は薄くなっていくようです。
しかし、100分の1秒を競うスプリンターにとって、ほんの少しでも速く走れるのであれば、このようにローギアでの筋力を高めてハイギアでの力発揮を高める手段は合理的であると思われます。
自身の伸びしろはどこなのか、自身の環境で行えるトレーニングは何があるのかをしっかり考えた上で、目的地を見失わないようにトレーニング内容や頻度を設定して速く走れるようになってほしいと思います。