☆可逆性の原理とは
可逆性の原理とは、トレーニングによってある体力要素が向上しても、トレーニングを中止してしまうと向上した体力は元に戻ってしまうということです。
体力要素によって異なりますが、一回のトレーニングによって大幅に体力を向上させることはできないので、身体への適応を促し続けるべく、繰り返しトレーニングを行う必要があります。
継続は力なりです。
◎超回復の理論(一要因理論)
さて、体力をうまく向上させていくにあたって、「超回復の理論」というのを良くお聞きになると思います。
この理論は適度な負荷(十分に強い刺激)を与えたらその体力は疲労し、休養をとることで元の体力レベル以上のところまで回復するような現象が起こるというものです。
体力の高まりとともにトレーニング負荷を高め、適切な休養をを繰り返すことで徐々に体力は高まるとされています。
図の見た目的にもわかりやすく、一般的に知られている理論と言えるでしょう。
超回復理論では、トレーニングによって起きる即時の効果(超回復)は生化学的な物質の消耗と枯渇から生じるとされています。
激しい運動を行うと様々な物質が消耗されることが明らかにされていますが、一番良く知られているのは「グリコーゲン」でしょう。
グリコーゲンは筋肉、肝臓内に貯蔵されている糖質です。
激しい運動をするとこのグリコーゲンはエネルギーとして使われやすいので減少してしまいます。
ここで休養をとることで、最初のグリコーゲンレベルより、多くグリコーゲンを蓄えるようなことが起こるのです。次の運動に準備をするようなイメージです。
逆に休養が短すぎると、グリコーゲン量は少なくなっていってしまいます。十分な準備ができない状態です。
さらに休養が長すぎるとこの準備状態はなかなか変化してくれなくなります。
このように超回復の理論では休養の期間は長すぎても短すぎても良くなく、最適な回復期間でトレーニング負荷を与え、それを繰り返していくことが重要となります。
選手、指導者にとって一般的であるこの超回復の理論ですが、上で述べた通り、激しい運動による筋グリコーゲンなどの代謝物質の消耗による研究が元になっています。
筋グリコーゲン等の研究では多くの論証がなされていますが、他の代謝物質での検証があまりなされていません。
疲労や回復、体力レベルなどを、グリコーゲンの超回復現象だけで説明できるほど、人間の身体は単純ではありません。
言ってしまえば、超回復理論は上記のようなグリコーゲンなどの代謝物質の現象が元になっていて、他の体力要素に似たような現象がみられるだけで、それを裏付けする論証があまりなされていないのが実際です。
トレーニング現象を全て説明できるような理論ではないということは覚えておくべきでしょう。
◎フィットネス-疲労理論(ニ要因理論)
超回復の理論に対して、あまり知られていませんが、フィットネス-疲労理論というものがあります。
・運動を行えば、それに伴いフィットネス(スキル)は向上するが、疲労によって初期は身体の準備状態が悪く、パフォーマンスが下がる。
・疲労が抜ける度合いはフィットネスが低下するよりも、比較的早いために、少し時間が経てば(疲労が抜けたら)身体の準備状態がよくなり、パフォーマンスが上がる。
というものです。
超回復理論が体力レベルという一つの指標で表されていたのに対して、これはフィットネス(スキル、適応)と疲労の2つの要因の引き算のような形でパフォーマンスが左右されるといった考え方です。
フィットネスはゆっくり変化し、疲労は比較的素早く変化します。
「要はトレーニングして、疲労抜いて、パフォーマンスが上がるってことだから超回復と一緒・・・?」
と、思われるかもしれませんが、トレーニングに対する考え方は、特に試合への調整期間で大きく異なります。
☆超回復・フィットネス-疲労理論の活用方法
超回復理論で計画を立てる場合は、試合時に最高の超回復現象を起こすように、一回のトレーニング刺激は落とさず、トレーニングの回数をコントロールします。
一方、フィットネス-疲労理論では、できるだけ疲労を残さないように、技術練習やボリュームの少ないトレーニングをメインにして、フィットネスを低下させないように戦闘準備を整えます。
実際、陸上競技での試合の調整はどのように行われているでしょうか。
一般に、試合2-3日前に「刺激をいれる」などと言って少し強度の高いスプリントトレーニングを取り入れる選手、指導者も多いことかと思われます。
もし、超回復理論で最高の超回復現象を引き起こすためなら、試合前のトレーニングセッションでも、それに見合うだけのトレーニング強度、量を行う必要があるでしょう。
しかし、実際には中-高強度でのスプリントを数本程度、またはスタート練習を少しくらい、試合前に行うだけといった手法を取り入れている場合も多いかと考えられます。
その点、フィットネス-疲労理論の方が現実を良く反映しているように考えられます。
また、ウォーミングアップで身体の準備状態がよくなり、良いパフォーマンスができるようになることを、トレーニングによる急性効果として考えると、ここはフィットネス-疲労理論で説明ができます。
しかし、超回復理論は非常にシンプルで考えやすく、適応度が高くて早いトレーニング初心者にはかなり使い勝手の良い理論でしょう。
また、一回のトレーニングにあまり時間をかけられず、十分に疲労させることができない環境にある選手では、隙間時間で質の高い(ここでは実践に近い、スピードレベルの高いトレーニングと定義しておきます…)トレーニングを行い、疲労をうまく抜く工夫をしながらフィットネス、スキルを高めていくといった考え方が有用かと思われます。
実際にこのような環境でもレベルの高い選手はゴロゴロいることでしょう。
競技者のレベル、競技特性、必要な体力要素、練習環境を考えて、上の2つの理論をうまく応用しながらトレーニング計画を立てていくと良いと思います。
どちらの理論にしても、トレーニング負荷を漸進的に高めていけるかどうかは重要となります。ウエイトであれば前よりも高重量、高回数、高スピードで、スプリントトレーニングであれば前よりも速くといった要領で、トレーニング計画に定期的にテストを設けることも有用です。毎回、テスト兼トレーニングでも構いませんが、とにかくトレーニング内容に何の変化もないままでは、身体に変化は起きづらくなっていきます。注意しましょう。